キャリアプラン

村上 尚加 先生-留学体験記

名前 :村上 尚加 Naoka Murakami
留学タイミング:卒後3年目、学位取得後3年目
留学先(国):アメリカ
研究留学か臨床留学:臨床・研究留学
留学中の研究領域・テーマ:移植免疫・オンコネフロロジー
Lab webpage: https://murakamilab.bwh.harvard.edu/

―留学を希望するまで、なぜ留学を望んだか

東京大学のPhD-MDコースで基礎研究(Gタンパク共役型受容体のシグナル伝達。清水孝雄教授)を行う中、臨床と研究を両方行うPhysician scientistとしてのキャリアに興味を持ちました。腎臓内科・移植内科に興味を持ち始めたのもその頃で、医学部卒業後はアメリカで臨床と研究に携わりたいと思うようになりました。自己・非自己抗原の認識の免疫学的メカニズム、そのバランスが崩れることによって起こる自己免疫疾患、移植片拒絶といったテーマに興味を持ったからです。アメリカは日本と比較して腎臓移植の件数も多く、移植免疫の研究をする(基礎研究・トランスレーショナル研究)ために適した研究環境があることが大きな魅力です。2年間の卒後初期臨床研修を虎の門病院(東京都港区)で行い、その後すぐにニューヨークで内科レジデンシーを始めました。

―留学先を決定するまで、どうやって決めたのか

当時は臨床留学の情報も今ほど手に入りやすくはなかったのですが、虎の門病院の先輩の話などを聞き、Nプログラムのサポートをいただき、ニューヨークのBeth Israel Medical Center(現在のMount Sinai Beth Israel)でマッチングを経て内科レジデントとして採用していただきました。その後、Brigham and Women’s Hospital(BWH)の腎臓内科でローテーションをしたご縁で、腎臓内科・移植内科のフェローシップ(後期研修)を行い、フェローシップ終了後はスタッフとしてBWHに勤務しています。

―留学するまで、何か必要か、何を準備すべきか

臨床留学のためには特に英語力が必要です。患者さんの訴えを聞き、治療方針を説明し、親身になって治療にあたります。研究留学においても、共同研究を円滑に進めたり、グラントを獲得したりするためにはコミュニケーション力が不可欠です。私自身、英語は母語ではないので、ラジオ英会話を聴いたり、個人レッスンなどに通ったりして英語力を伸ばす努力をしました。今も日々勉強です。

英語のスキル以外にも、自分が(生涯を通じて、あるいは短期的に)やりたいことを明確に考える習慣をつける・トレーニングをすることもおすすめです。特に留学が短期の場合は、留学期間中に「これをやるぞ、これを身に付けたい」という目標があると、滞在が有意義になると思います。

―留学してから

プレゼン能力、Creativity、問題を見つけて根気よく取り組む姿勢、物事をポジティブに捉えて凹まない精神力が鍛えられます。実験においても、日常生活においても、うまくいかないことの方が大半ですので、そうした状況においても腐らない・比べない・諦めないResilienceを鍛えましょう。もちろん研究業績やキャリアを伸ばしていくのも大切ですが、家族との時間など、かけがえのないものの価値に気付かされるのも、外国で生活して異なる価値観に触れるメリットかと思います。

―留学後のキャリアパス・プラン

引き続きPrincipal Investigator (PI)としてアメリカで移植医療・移植免疫の研究を続けたいと思っています。また、日本の腎臓移植数を伸ばすにはどうすれば良いか、移植腎臓内科医の育成についても長期的に考えていきたいと考えています。

―キャリアプランとしての海外留学のメリット

研究留学に際しては、海外の研究体制・スピード感、ダイナミックなコラボレーションを体感できることが大きなメリットだと思います。研究室間の垣根が低い、サイエンスに意気投合して一緒に研究に取り組める環境に身を置けて幸運に思います。
アメリカでPIとして研究室運営をするのは日本の大教室制に所属し研究するのとは少し異なる興味深い経験となると思います。自分のやりたいテーマを掲げ、小さいながらもグループを主導し、目標に向けて資金・資材・人材調達を行う、経営スキルが鍛えられます。これもまた、現在も日々勉強の毎日です。

―留学に際して、腎臓領域の医師/腎臓学会会員でよかったこと

腎臓内科は非常に幅広いResearch questions (AKI, CKD, electrolytes/ acid base, fluid management, bone mineral disease, dialysis, renal pathology/ glomerulonephritis, auto/alloimmunity etc.)に取り組むことができるので、興味が尽きません。他分野との学際領域(例えば腫瘍内科との学際のオンコネフロロジー)の診療や研究もますます発展していくでしょう。これからの世代にも是非、腎臓内科学への興味を持ってもらいたいと思います。

―海外留学を目指す先生方へのメッセージ

ぜひ肩肘張らずに留学を志してほしいと思います。専門医制度の複雑化、為替相場の変動などの経済的障壁などがあるかと思いますが、きっと実り多い体験になると思います!